自意識の泉
長い準備期間を耐え抜いた蝉が、今こそ出番だとばかりに声を張り上げ、
それと主役の座を争うように熱を放つ太陽が、じりじりと肌を焼いている。
ある夏の日、僕は猛烈に悩んでいた。
高校生の女の子が、じっとこちらを見つめている。
かれこれ10分もの間、ずっとこちらを見つめている。
─────────────────────────
長い準備期間を耐え抜いた蝉が、今こそ出番だとばかりに声を張り上げ、
それと主役の座を争うように熱を放つ太陽が、じりじりと肌を焼いている。
ある夏の日、私は猛烈に悩んでいた。
額を流れ落ちる汗に一抹の不安を感じ、目についたコンビニに入店して確認すると…
やはり、前髪がおでこにぴったりと張り付いている。
汗ばんだ肌を拭いたところで、状況は何も変わらない。
前髪自体が濡れてしまっているのだから。
─────────────────────────
そう。
一見鏡に似たスタッフ通用口についたこの小窓は、何を隠そうマジックミラー。
今僕が店内へと出て行けば、彼女はさぞかし恥ずかしい思いをするであろう。
それはあまりにかわいそうだ。
神に誓って、その気持ちに嘘はない。
ただ…かわいそうだとは思うが、僕は仕事中だ。
レジには、少しずつお客様が並び始めている。
許せ女の子、隣のレジを開けることこそが、僕の使命なのだ…!
─────────────────────────
わぁっ!
急に開いた!!?
えっっっっ…
何…?
この店員さんの気まずそうな顔は…!!!
もしかして…もしかして…
前髪チェックを口実に自分の可愛さを再確認していたこの私の姿を、ずっと見られていたの!?
友達には「やばーい★私まじブスー★」なんて言いながら、内心自分もそこそこイケてると思っている…
そんな私の心の奥を、この男性に見透かされてしまったというのっ!?
─────────────────────────
家から一歩でも外に出た瞬間常に油断は許されない、トラップだらけの現代社会。
その恐ろしさを知った、16歳の夏。